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『こいも』 日々思うあれこれ

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こんな高齢者住宅をつくってはいけない④ ~地域密着型 特定施設~ 


すべての事業には、その事業性に沿った適正な規模というものがある。
規模を大きくすることによって得られる効果を 『スケールメリット』 と言うが、逆に、事業によっては一定の規模以下では、そのビジネスが成立しないこともある。

例えば、私立の中学校の新規開設で、『各学年一クラス(各30名以内)であれば認可する』と言われても、それでは事業としてはとても成立としない。生徒数が多くても少なくても、中学生が運動できる広い校庭や音楽室や実験室は必要になる。各教科の担当の先生も、必ず一人は必要になる。入学金や授業料を、よほど高額なものにしなければ収支が合わないが、それでは生徒が集まらない。

『一日一組しか予約を受けない旅館・レストラン』というのがマスコミに登場することがある。
しかし、利益を出す継続的な事業として行うのであれば、他の旅館には真似のできない特殊なサービス、そのレストランでしか食べられない特別な料理が提供でき、かつ、高額な価格設定にしなければ成立しない。若しくは、採算を度外視した、個人の趣味に近いものになる。

これは、高齢者住宅でも同じだ。
高齢者住宅の最大のメリットは、要介護高齢者が集まって生活することによって、効果的・効率的な介護サービスが提供できることにある。定員が少なくなれば、事業としての効率性・収益性は大きく低下する。

この高齢者住宅の適正な経営規模というもの全く理解せずに制度化されたのが、『地域密着型特定施設』 だ。

2006年度の介護保険制度改定で、29床以下の特養ホームや特定施設が「地域密着型サービス」として制度化された。その地域に密着した相談しやすい、入所しやすい小さな介護拠点・高齢者住宅をたくさんつくりたいという、理念としては素晴らしいものだ。しかし、それは事業としては全く成立しない。

これは、地域密着型の特養ホームの現状を見ればわかる。
ユニット型個室の特養ホーム(介護老人福祉施設)の介護報酬単価は、介護付有料老人ホーム(一般型特定施設)よりも約3万円高く設定されており、地域密着型(29床以下)のユニット型個室特養ホームには、更に一人1ヶ月4万円以上の高い介護報酬が設定されている。

 介護報酬比較


同じユニット型個室の特養ホームなのに、何故、高い報酬が設定されているのか。
それは、指定基準を超えて、実際にはそれだけ高いの介護看護スタッフ配置が必要になるからだ。

29名の入居者でも、緊急対応を考えると二人の夜勤スタッフを配置しなければならない。
高住経ネットの試算によれば、【10名定員×2ユニット】【9名定員×1ユニット】として、安定的なサービス提供が可能な介護看護スタッフ数をシミュレーションすると、常勤換算で22名になる。入所者29名に対してスタッフ22名、これは【1.3:1配置】という、本来の指定基準の2倍以上の介護看護スタッフの配置だ。民間の介護付有料老人ホームでも、これほど手厚いスタッフ配置を行っているところは、ほとんどない

これは最高峰の手厚い配置であると同時に、介護の効率性が悪くなるため、そのように配置しないと介護サービスがまわらないという、システム的には最低限のスタッフ配置でもある。その他、相談員、ケアマネジャー、施設管理者なども必要になるため、事務管理費相当分の費用も割高になる。

実際、地域密着型の特養ホームは、高い介護報酬が設定されていても、近隣に別途、本体の施設があり、そのサポートを受けるサテライト施設としてでないと運営することは難しいと言われている。『特養ホームを開設したい』 という社会福祉法人は多いが、この地域密着型だけは、全く収支がマイナスになるため、どの社会福祉法人も手を上げないというのが実情だ。

民間の高齢者住宅でも同じことが言える。
高齢者住宅事業は営利事業であるため、定員数に関わらず単独で収益を確保しなければならない。また、特養ホームの場合、地域密着型には手厚い介護報酬が設定されているが、一般型特定施設の介護報酬は、地域密着型でも同じ報酬単価となっている。地域密着型のユニット型個室特養ホームと同じ基準で、同程度の介護サービスを提供する定員29名未満の介護付有料老人ホームを作ろうと思えば、月額費用は40万円を超えるものになるだろう。

民間事業の場合、それは価格競争力がなくなるということだ。
新しい高齢者住宅、商品性の高い高齢者住宅は次々と開設される。入居者・家族から見れば、同じ程度・レベルのサービスであっても、入居一時金や月額費用が割高になるということだ。特養ホームのように減額制度によって支払限度額が定められており、同程度のサービスで同程度の価格であれば、定員が少ないほうが家庭的で良いと考える人もいるだろう。しかし、民間の高齢者住宅において、同程度のサービスなのに価格が大きく違えば、それでも定員数の多寡によって選ぶという人はいない。

何故、こんなことが起こっているかと言えば、特定施設の総量規制によって、事業性を理解しない 『特定施設 信仰』 なるものが生まれているからだ。更に、市町村の担当者は、『そんな経営のことは興味ない』 と、『今年の指定枠は20名です』 と言っている。

20名、25名の指定枠があるからと、それに合わせて事業計画を策定し、開設している介護付有料老人ホームを見かけるが、机上の計画では可能だとしても、実際に長期安定した経営を続けることは不可能だ。価格を抑えるために、スタッフの賃金を抑えることになり、また、夜勤が一人しかいないというところも多く、介護システムとしても、商品としても非常に脆弱だ。重度要介護高齢者が多くなれば、転倒事故などのトラブルが多発し、介護スタッフが次々と退職し、事業として継続できなくなる。
これは、経営の失敗ではなく、『地域密着型 特定施設』 の介護付有料老人ホームは、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅として、規模的に初めから事業として成立しないのだ。

この規模の問題は、介護付有料老人ホームに限ったことではない。
住宅型有料老人ホームでも、サ高住でも同じだ。
すべての事業には、その事業性に沿った、適正な規模というものがある。事業性や経営実務を理解しない脆弱な制度のもとで作られた脆弱な商品では、長期安定経営はできないのだ。




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