『こいも』 日々思うあれこれ

あれこれ日々思うこと、考えることを、書いています。

 

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「高齢者住宅があぶない」の出版にあたって 



高齢化率の上昇は、ほとんどの先進国で現れている現象ですが、日本の高齢化には、他国と比べてそのスピードが非常に速いということ、そして、急速な経済発展の過程で、高齢者を取り巻く環境が劇的に変化してきたという二つの特徴があります。
これから日本は、2015年~2025年にかけての10年で、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になるという超高齢社会の最も急激な坂道を上ることになります。東京、大阪、神奈川、埼玉、愛知といった大都市部を中心に、5年毎に200~300万人の後期高齢者が増加し、核家族化や少子化も相まって、その3分の2以上が独居、または夫婦のみの高齢者世帯となることもわかっています。
その中で、自宅で生活できない、高齢者、特に要介護高齢者の安定的な住まいをどのように確保していくのかは、喫緊の課題です。

「高齢者の住まい」を巡る様々な課題が表面化するにつれ、新聞やテレビなどでも、高齢者の住まいやその課題をテーマとした報道や番組を目にする機会が増えてきました。その内容や論点、視点はそれぞれに違いますが、前提としている組み立てはほとんど変わりません。

■ 「特別養護老人ホームは、13万円程度で安いけれど待機者多く入りにくい」
■ 「有料老人ホームの価格は、平均25万円で低所得者に入りにくい」
■ 「低価格のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が増えている」
■ 「特養ホームにも高齢者住宅にも入れない低所得者が無届施設を頼る」

これらの前提が、事実として間違っているというわけではありませんが、その捉え方は、あまりにも表面的、かつ近視眼的です。そのため、様々な課題が噴出しているにもかかわらず、「どうしてこんなことになってしまったのか?」という、中身の本質的な議論は、これまでまったく行われてきませんでした。

いくつか例を挙げて、もう少し深く掘り下げてみます。
「特養ホームは安いけれど、有料老人ホームは高い」という議論。
高齢者や家族を対象とした高齢者選びのセミナーでも、「有料老人ホームほど豪華でなくても良いので、低価格の特養ホームを…」という意見が数多く聞かれます。
しかし、実際はそうではありません。「13万円のユニット型個室特養ホーム」と「25万円の介護付有料老人ホーム」のどちらが豪華で、手厚いサービスが提供されているのかと言えば前者です。現在主流のユニット型個室特養ホームと同じ水準の介護付有料老人ホームをつくると、その価格設定は30万円をゆうに超えます。特養ホームが安いのは、高齢者住宅等で生活する高齢者と比較して、一人当たり年間180万円という莫大な社会保障費が投入されているからにすぎません。

もう一つは、有料老人ホームとサ高住の関係です。
この有料老人ホームとサ高住は、制度の違い、基準の違いは説明できますが、何故、二つの制度が必要になるのかは誰にも説明できません。一方は厚労省の制度、もう一方は国交省の制度というだけです。それぞれの省庁が、補助金争い、利権争いの中で、それぞれの制度をごり押ししてきたために、制度間の歪みが拡大し、無届施設の激増など、制度の基礎であるべき入居者保護施策は有名無実化しています。
また、「有料老人ホームは25万円、サ高住は10数万円程度」ということが当たり前のように報道されていますが、どちらも同じ高齢者住宅ですから、建物設備、介護看護サービス、食事サービスなど、要介護高齢者が生活するために必要となるサービスやそのコストは変わりません。篤志家が資産を投げ打ったり、大半のスタッフがボランティアでないかぎり、同じ民間の高齢者住宅事業で、有料老人ホームからサ高住へとの制度名称が変わるだけで、数万円~十数万円も安くなるはずがありません。

この「何故、サ高住は安いのか」という問いの答えは、無届施設の安さの理由と同じです。
現在、無届施設は把握されているだけでも1000ヶ所近くあり、その中で生活している要介護高齢者は、少なくとも数万人~十数万人になります。家賃や食費は低価格に抑えられていますが、その分、同一法人、関連法人で運営されている訪問介護や通所介護などの介護サービスを限度額一杯まで利用させるというシステムになっており、医療法人の場合は、これに医療保険(健康保険)が加わります。食費や家賃を抑えて、その分、介護サービスや検査、投薬などを関連法人で行って、そこで利益を確保するというビジネスモデルです。また、それらが適切に行われているのかも、誰もチェックしていません。つまり、自己負担は安いけれど、それがすべて社会保障費に転嫁されるシステムになっているのです。

これらの課題は、それぞれに深く関係しています。
一部識者と呼ばれる人の中にも、「無届施設の中にも優良なものがある」「民間の高齢者住宅に入れない低所得者のためにも一定は必要」と話す人がいます。
しかし、無届施設は、法律を無視して違法に経営されている高齢者住宅事業者です。その大半は、社会保障費を搾取する貧困ビジネスですし、情報も開示されず、行政のチェックも入りませんから、入居者に対する惨い虐待や身体拘束、更には、本人の預貯金を勝手に引き出すなどの経済虐待が横行しています。また、身体機能の低下した要介護高齢者を対象としているのですから、介護事故や感染症、火災、自然災害などへの最低限の備えは必要です。
高齢者住宅は、「行き場がないために高齢者・家族が弱い立場に立たされやすい」「スタッフや入居者が限定され、閉鎖的になりやすい」「認知症高齢者、要介護高齢者は自分で意見や苦情が言えない」という特性から、虐待や劣悪なサービス、更にはその隠蔽が起こりやすいとされています。
そのために、有料老人ホームやサ高住の制度によって、事前の届け出や登録が義務付けられており、最低限の安全を担保するための基準や指導監査の体制が法令化されているのです。「制度基準の弾力的な見直しを・・」という議論は必要ですが、これを認めるのは、「貧乏人だから、バリアフリーじゃなくてもいいじゃないか」「災害対策が不十分でも仕方ない」というのは、「マンションの鉄筋が少なくても、安いからいいじゃないか」という発想と同じです。

「特養ホームが絶対的に不足しているから、無届施設が増える」という意見も間違っています。
現在、作られている特養ホームはユニット型個室が中心で、その価格設定は、13万円程度ですが、実際には15万円程度は必要です。これに健康保険料や介護保険料、医療費などを加えると、実際の生活費は、18万円程度にはなります。低所得者対策が不十分なため、莫大な社会保障費を投入し、セーフティネットとして整備された老人福祉施設であるにもかかわらず、十分な預貯金がない限り、年金など年収200万円以下の高齢者は極端に入所しにくいという、本末転倒の事態になっているのです。
現在、個室型の特養ホームは特養ホーム総数の内の7割、ユニット型個室は5割を超えています。実際、「東京では特養ホームが不足している」などと報道されていますが、足立区にできた特養ホームでは、開所時に入所定員を満たさなかったという事態も発生しています。現在の制度では、近くに特養ホームができても、無届施設を頼らざるを得ないようなお金のない貧困層の人達は申し込むことさえできないのです。

更に、この問題は、特養ホームを運営する社会福祉法人の迷走にもつながっています。
現在、社会福祉法人の一法人あたりの平均余剰金は3億円、全国で2兆円に上ると報道されています。中には、30億、40億円という莫大な利益を貯め込んでいる法人もあり、そこに、天下り公務員や一部の地方議員が群がるという構図が出来上がっています。
公共工事や防衛費というと、眉をつり上げる人達も、社会保障、社会福祉と言えば、その効率性や効果、不正が行われていないかといった最低限のチェックもなく、莫大な予算が立てられ、執行されています。
財源も人材も絶対的に不足しているときに、富裕層を対象とした社会福祉施設を、莫大な社会保障費を投入して作っている国など、どこにもありません。
表の顔では「社会保障費が足りない」「介護スタッフの給与が低い」「増税、負担増やむなし」と、社会保障を政治の道具としてきた人達が、その陰でどんな利権を得て、どんな不正なことをしているのかを見れば、この老人福祉を隠れ蓑にした深い闇が見えてくるでしょう。


今後、自宅で生活できない高齢者が激増します。
これから、急速に増加する要介護高齢者、認知症高齢者の対策は待ったなしの状況です。
超高齢社会に向けて、「一定の負担の増加は止む無し」と考えている国民は多いのですが、それは、社会保障制度が、公平で公正、かつ効率的、効果的であることが前提です。社会福祉法人をお財布のように使っている天下り公務員や一部の地方議員の福祉利権ために、また、行き場のない高齢者を喰い物にするような貧困ビジネスのために、負担増を認めているのではありません。
「高齢者住宅」「介護施設」など、テレビや新聞などで報道される一方的なイメージは、その多くが間違っており、議論も本質から遠く離れています。また、超高齢社会を支える、財源も人材も絶対的に不足しており、残された武器は、「智慧」しか残っていませんし、それが使える時間も、もう限られています。
高齢者介護の現場でいま何が起こっているのか、制度的な課題はどこにあるのか、その現実を直視し、今後、どうしていくべきなのか、そのあるべき方向性について、早急に見直さなければ、超高齢社会は高齢者だけでなく、働く世代にとって悲惨なものとなることは間違いありません。

高齢者の住まいのあり方、その見直しについて必要な6つの視点を提言します。


2015年8月27日
濱田 孝一



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『高齢者住宅があぶない ~介護の現場でいま何がおこっているのか~

序 章 いま、高齢者住宅で何が起こっているのか
第一章 超高齢社会の現実と高齢者住宅の役割
第二章 混乱する高齢者住宅制度、激増する無届施設
第三章 役割を失った特養ホーム・社会福祉法人
第四章 高齢者の住まいをどのように整備していくのか
(視点Ⅰ) 高齢者住宅に対する指導監査の見直し
(視点Ⅱ) 高齢者住宅に適用される介護報酬の見直し
(視点Ⅲ) 社会福祉法人の役割の見直し
(視点Ⅳ) 特養ホームの役割と対象者の見直し
(視点Ⅴ) ショート・ミドルステイの強化
(視点Ⅵ) 低所得者対策と自己負担
おわりに  介護の仕事には将来性がないと考える人へ

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高齢者住宅があぶない




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少々、ウンザリしている 



少々、ウンザリしている。

介護報酬改定に絡み、人と話をしたり、コメントを求められることが多い。今回のマイナス改定に絡んで、スタッフ、事業者、マスコミ問わず、口にするのが、「介護の給与が安いのに・・」「いまでもスタッフが集まらないのに・・」という意見なのか、愚痴なのかわからないような話。

介護報酬は、もう少し高くあれ・・と思うし、一応黙って話をきいているけれど、「男性職員が、結婚を機にやめることを結婚退職と言います。給与が低いからです・・」なんて、胸を張って言う人をみると、「ほな、やめたらええやん」と、心の中で思ってしまう。

「もっと楽で、エエ給与の仕事したいんやったら、そっち行ったらええやん。じいちゃん、ばあちゃんも、『俺はかわいそう』なんて思いにがら仕事してるやつに介護してほしないやろ」
「営業力があるんやったら営業したらええし、販売力があるなら販売の仕事したらええ。おもろいこと言えるんやったら芸人したらええやん」
「介護だけが大変な仕事やと思てんのとちゃうか。いややったら、他の仕事してみたらええやんか」  って。 

一度、あるセミナーでそう言うと(もちろんもっとソフトに)、「僕は介護の仕事が好きなんです」と、怒気を含んで彼は言った。
ほんなら、ぐずぐす言うなや・・って話。

これは事業者も同じ。
「このままでは介護労働離れが、ますます進むだろう」「介護報酬が低いので、未来は明るくない」なんて、わざわざ手を挙げて、評論家的な意見を平気でいう施設長もいる。社長や管理者みずから、「景気が悪いので、わが社で働いても未来はないよ」「この業界は大変なのに給与が安いんだよ」なんてぼやいている会社に、本当に優秀な人材がくるとでも思っているのだろうか。

これは、マスコミにも問題がある。
介護の仕事は「給与が低い」「待遇が悪い」「ますます介護スタッフが足りなくなる」というデータだけを出して、それ以上深く考えようとしない。そういえば、昔、「ミスター年金」などと呼ばれた御仁が大臣の時に、「仕事を探している人に介護の仕事を積極的に斡旋します・・」なんて言っていたけれど、介護は他に仕事のない人の仕事ではない。
「ほめ殺し」ならぬ「おため殺し」で、実際は介護の人はかわいそう、介護の仕事はやめましょう・・っていうネガティブキャンペーンを張っているようなものだ。

「給与が安くても、立派な仕事なので頑張ろう・・」なんて言う気はないけれど、多くの人は、介護という専門性の価値の「安定性」と「将来性」について誤解をしている。

例えば、パソコンにとってかわられるような仕事や、海外に出ていくような仕事は、厳しくなることは明らか。IT技術者だって、一時期はもてはやされたけど、パソコンが高機能になると、技術力や専門性によって厳しく淘汰される時代になっている。弁護士や公認会計士といった、超難関資格を持っていても、それだけで高給が約束されるような時代ではない。

もちろん、介護と言う仕事をしていれば、みんな年功序列で給与が上がっていくというような仕事ではない(そんな仕事は、もうどこにもない)。
人よりも高い給与がほしいのであれば、努力をして、その世界で自分の「市場価値」を高めるしかない。高い給与を出しても、ほしいと思ってもらえるような人材になるしかないのだ。

言うまでもなく、高齢者介護という仕事は、これからの超高齢社会において、安定性だけでなく、将来性も高い稀有な仕事である。
特に、リスクマネジメントやサービス管理が適切にできる中核となる介護スタッフは、今でも絶対的に不足しているし、今後も不足する。今でも、優秀な中核スタッフが離職するという情報が流れると、他の事業者から一斉に声がかかる。今後、ヘッドハンティングはますます活発になることは間違いない。

よほど人口の少ない過疎地でないかぎり、一個人や一企業は、社会全体の少子化や介護労働人口の推移なんてことを考える必要はない。
その将来性をスタッフに語ることのできる、介護という仕事の未来を見せることのできる事業者には、スタッフが集まり、そうでない事業所にはスタッフは集まらない。
5年後、10年後を見据えて仕事をできる人には、それに応じた将来性が与えられるし、そうでない人はそれなりにしかならない。

それだけのことだ。

category: 高齢者介護のプロになるために

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何も考えずに取材するから・・・ 


久しぶりのブログ・・・

最近、いくつかの新聞社さんからサ高住の問題点について、取材申し込みを受けている。直接的、間接的に彼らが求めるのは、「ひどい事例や事業所を教えてくれ・・」というもの。

そんなひどい事例が今日の朝日デジタルに紹介されている。(これは私が取材を受けたものではないけれど・・)

制度外ホームで「拘束介護」 約130人、体固定や施錠

この人たちは、この劣悪な事業者の社会保障費の搾取の仕掛けとして、死ぬまで劣悪な環境、生き地獄の中で生活することになる。これだけ惨い事例にもかかわらず、事業者に対する罰則もなく、表面的な指導が行われるだけで、そのまま続けられることになるだろう。

僕が憤っているのは、事業者に対してではない。
さすが普段から「人権、人権」と口先だけで言っている朝日新聞さんというべきだろうが、「転倒するかもしれないから、拘束せざるを得ない、仕方ないねぇ」っていう事業者の言い分を聞いて、そのまま帰ってきたのだろう。

耳目を引くために事例やケースを上げるということは大切だが、制度や問題の本質がどこにあるのかを全く勉強せずに、表面的にこんな事業者を事例を紹介しても、何も意味もない。その背景にあるのは何か、なぜこんな非道なことがまかり通っているのか、どこに制度的欠陥があるのか・・ということを訴えなければ、意味がない。

記事からは、何が言いたいのか、何が論点かさえも見えてこない。
事業者に対する憤りも感じられない。

「身体拘束がありました、事業所はこう言ってます・・」

厳しいようだけど、全く勉強せずに取材しようとするから、こんな地域の中学生新聞のような記事になる。
そもそも、制度外ホームってなんですか?
だから、口先だけだと言われるんだよ、朝日新聞さん。


category: 未分類

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私事ですが・・・ 


私事ですが・・

4月の末より40度を超える高熱と激しい頭痛が続き、ずっと入院していました。
血液や髄液、CT、MRIなど、様々な精密検査をしていただいたのですが、原因わからず、
重篤な病気の疑いもあったため、
『このままどうなるのか・・』と、心配というか、いささか覚悟もしたのですが、
原因不明のままですが、とりあえず熱も下がり、頭痛も治まってきたため、
退院し、目下、自宅療養中 ・・・ というところです。
頭の芯はまだ少し、重いのですが、体調は少しずつ戻りつつあります。

私は、これまで大病や入院をしたことがありませんでしたが、
朦朧とする中で、仕事のこと、周囲のこと、存在意義など、たくさんのことを考えることができ、
これからの人生に大切なことを教えてもらった気がします。

ただ、あまり頻繁に経験したいようなものではなく、
『いつまでも、若くないんだなぁ・・・』ということを実感しました。

皆様、くれぐれも、体調管理には、ご注意ください。









category: 日々のよしなしごと

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特養ホーム 待機者 52万人 という課題の本質 


各種新聞が次のようなニュースを配信しています。

『特養ホームへの入所を希望しながら入れない待機者が、昨年10月時点で、全国で52万人にのぼることが厚生労働省のまとめでわかった。平成21年の前回調査の約42万人より約10万人増えた。
全国の特養ホームは7865施設で、総定員は51万6000人。
要介護度別では要介護3以上が66%を占める』

厚生労働省が、定期的に必ず発表する 「特養ホームが足りない」「施設整備が追い付いていない」というニュース。待機者42万人というのは、もうその10年くらい前から同じ数字だったのに、この4年で突如10万人増えたのか・・・また、以前、待機者の情報をしっかりと管理しているいくつかの事業所を調査すると、待機者数の内、実質的にすぐに対応が必要な特養ホームの対象となるのは1割程度だった・・・という結果を公表していましたが、その話がどこに行ったのか・・・表面的なマスコミ報道だけではわからないことがたくさんあります。
 高齢化が進展しているために、特養ホームへの申し込みが増加しているのは事実であり、もちろん待機者数が増えていることは間違いありません。しかし、私は、待機者数がどうか・・というよりも、現行の制度で、ユニット型特養ホームを増やしてはいけないと考えています。
 高住経ネットやブログでも、その課題を述べていますが、一部繰り返しになりますが、現在の特養ホームの問題について、整理します。

① 高額な運営費用がかかる。
 ひとつは、その開設や運営に莫大な費用がかかるということです。
現在、作られているユニット型個室特養ホームは重度要介護高齢者の住まいとしては、理想的なものだと言って良いのですが、その理想を維持するには、たくさんの人材とそれを支える高額な運営費がかかります。
 特養ホームの介護看護職員配置の指定基準は、入所者3名に対して介護看護職員1名という【3:1配置】であり、旧来の複数人部屋の特養ホームはその配置で運営されていました。しかし、最近の全室個室のユニット型個室特養ホームは、1.8人のスタッフに対して、一人の介護看護スタッフ【1.8:1配置】が必要だとされており、それに応じて高い介護報酬が設定されています。建設補助など様々なものを勘案すると、在宅で生活する高齢者と比較して、ユニット型個室特養ホームの入所者には、一人当たり年間180万円もの社会保障費が多くかかると厚生労働省はは公表しています。
 仮に、この52万人という数字が正しく、かつ定員数が現状のままと仮定すると、団塊の世代が後期高齢者になる10年後、15年後には、待機者は優に100万人を超えることになるでしょう。もし、この特養ホームの待機者数を減らすために、特養ホームを50万床、60万床つくるとすると、現在予測されている社会保障費の伸びに加え、年間、プラス1兆円以上の社会保障費が必要となります。

② 高齢者住宅との役割の混乱
 二点目は、高齢者住宅との役割の混乱です。
 厚生労働省は、特養ホームなどの介護保険施設は「高齢者の住まいの役割をもつ」としています。
 『では、高齢者の住宅なのか?』と聞くと、『高齢者の住宅(住居)ではないが、高齢者の住まいである』という、何とも訳の分からない答えが返ってきます。そして、『高齢者個人の住まいであるから・・・』と、この10年程度は、新規開設にあたって、全室個室のユニット型個室特養ホームしか認めていません。
 一般的には、特養ホームよりも高いサービスを受けたい人は介護付有料老人ホームなどの民間の高齢者住宅へ入居すれば良いと考えるでしょう。しかし、現在主流のユニット型個室特養ホームには、介護付有料老人ホームよりも180万円もの高い社会保障費が投入されているのですから、ユニット型個室特養ホームと全く同じ基準で、介護付有料老人ホームをつくると、その月額支払費用は30万円を優に超えます。
 最近は、以前と比較すると、メッセージさんなど多くの企業で、月額20万円程度の低価格の介護付有料老人ホームが増えています。その多くは様々な経営努力のもとで月額費用が抑えられていますが、経営努力だけで、一人あたり年間180万円(月額15万円)もの支出カットができるはずがありませんから、介護看護スタッフなどの人員配置はユニット型特養ホームよりも低いものです。
 本来、特養ホームは、老人福祉施設であり、セーフティネットの役割を持つものであるからこそ、その運営は社会福祉法人に限定され、かつ高額な社会保障費が投入されているのであり、低価格で利用できるのです。
 言い換えれば、民間であれば30万円かかるサービスを、その半額以下で利用できるのですから、要介護高齢者が特養ホームに殺到するのは当然です。そのため、介護付有料老人ホームなどの高齢者住宅に入居していても、特養ホームへの申し込みをしている人はたくさんいます。
 現行制度のままで、財政的に特養ホームを作り続けることは不可能ですし、たまたま入所できた人だけは10数万円の月額費用で入所できるが、そこの入所できない人は、同じサービスを二倍以上の費用を支払わなければならないというのは、社会保障制度としてあまりにも不公平です。そして、もし特養ホームが高齢者の住まい(住宅?)なのであれば、民間の高齢者住宅は、それ以上の高いサービスを提供する、月額費用が40万円50万円という一部の富裕層を対象としたものしか存在意義はなく、経営努力による低価格化は意味を失ってしまいます。特養ホームと競争などできないため、待機者がゼロになれば、現在の民間の高齢者住宅の大半は倒産します。

③ 社会福祉法人の混乱
 三点目は、社会福祉法人の役割の混乱です。
 政府の規制改革の中で、社会福祉法人の役割の見直しや、特養ホームの運営の民間開放などが積極的に議論されています。
 特に、民間企業の経営団体からは、特養ホーム運営の民間開放の要望が強いようです。それは、今の特養ホームが、営利法人や経営者が垂涎の的とするほどに、利益が高いからです。特養ホームを運営している社会福祉法人あたりの余剰金は約3億円。全国で2兆円に上るとしています。
 私はコンサルタントとして何度も経験しましたが、社会福祉法人や特養ホームは、行政による認可事業ですから、地方議員が理事長を務めたり、行政の天下り先となっている社会福祉法人が圧倒的に有利に事業展開を進めることができます。中には、一つの社会福祉法人で30億、40億という余剰金を持っていたり、一部の理事が高額な報酬を受けていたり、 理事長が運営している一般企業にその余剰金を横流しし、焦げ付くなどのトラブルも起きています。
 しかし、本来、社会福祉というのは、営利事業に向かないから公益事業として認可され、高い補助金が支出されているのです。一部の社会福祉法人は、優遇措置をたっぷりと受けた介護ビジネス法人として、高い利益をあげていますが、その一方で、本来の役割である介護虐待や介護拒否などの胃が痛くなるほどの困難ケースに寄り添い、社会的弱者に対して真摯に対応している社会福祉法人ほど、経済的に困窮しています。24時間365日、休日手当や残業手当もなく、困難ケースに取り組んでいる相談員を何人も知っています。
 「今の特養ホームは問題だ・・」というと、「現場のスタッフは頑張っている・・」と安易に反論される方がありますが、制度の根幹が間違っているために、必死で頑張っている介護職員や相談員の努力に報いることができないのです。

 ここまで、3つの問題を挙げました。
 現在のユニット型特養ホームは、財政運用やスタッフの介護動線や効率性を無視して、居住性の向上、理想だけを追い求めて作られたものです。そこには限りある財政や人材をどのように、公平に効率的に運用すべきか、超高齢社会の中で老人福祉施設はどうあるべきか・・という視点はありません。そして、莫大な社会保障費が投入される一方で、現場で働く職員には全く還元されず、天下りや一部の地方議員等の福祉利権となり、社会福祉法人は介護ビジネス法人となって、地域の老人福祉を衰退させています。
 問題はそれだけではありません。
 最大の課題は、現在の社会福祉法人の運営するユニット型特養ホームは、莫大な社会保障費が投入されセーフティネットとして整備されたものでありながら、お金のない人は入れないということです。

 特養ホームは、介護付有料老人ホーム等の民間の高齢者住宅と違い、年金程度で入れるように・・ということで、高額の社会保障費が投入されているため、月額利用料そのものが非常に安く設定されており、かつ、低所得者に対しては、独自の低所得者対策が行われています。
それを一覧にしたものが、次の表です。
    

特養ホームの低所得者対策



では、実際に、年金だけで入れるのでしょうか。 

第一段階の高齢者は、生活保護の受給者。制度的にはユニット型個室特養ホームにも入居可能ですが、実質的に対象外と言って良いでしょう。
 第二段階というのは、収入が80万円未満の高齢者です。今年度の国民年金の老齢基礎年金額は、78.6万円ですから、その想定で検討されています。この第二段階の高齢者には、ホテルコストや食費だけでなく、介護保険の一割負担も上限額が決まっていますから、低価格で利用することができます。しかし、実際に計算すると、預貯金がない場合や家族等からの支援がない場合は、基礎年金だけで、ユニット型特養ホームに入所するのは難しいことがわかります。
 上記の表のように、収入が80万円の第二段階の高齢者がホームに支払うのは5.2万円ですが、それだけでなく介護保険料や健康保険料の他、病院にかかった場合、医療費も必要となります。日常生活の上でのおやつ代やお小遣い、洋服などの購入なども、生活していく上では必要でしょう。その費用が毎月1.5万円(かなり少なく見積もって)とすると、一ヶ月に必要な費用は6.7万円、年間で80万円を超えてしまいます。つまり、国民年金の基礎年金だけしかない高齢者は、入居できません。
 第三段階の高齢者も同様に計算してみます。
 収入金額が80万円~155万円、月額費用が8.5万円となります。ただし、保険料等も上がるので、その他生活費が2万円と仮定すると、月額の生活費は、少なく見積もっても10.5万円。年金収入のみでその年額が126万円以下の高齢者は入所できないということになります。
 最後の、第四段階、合計収入が155万円以上の第四段階の高齢者はどうでしょう。
特養ホームへの支払いは13万円程度で、その他生活費は2.5万円と仮定すると、月額の生活費は15.5万円。年間では186万円となり、31万円のマイナスとなります。
 更に、現在、開設されているユニット型個室特養ホームは、老人福祉施設でありながら、家賃相当にあたりホテルコストを各施設で自由に設定することができます。表にあるように居住費の基準額は1970円ですが、この数年、開設される特養ホームのホテルコストの平均は2500円程度です。更に食費も自由に設定でき、高くなっていますから、第四段階の高齢者の負担は、13万円ではなく、15万円程度になっています。これに、その他生活費2.5万円を加えると、月額17.5万円、年間で210万円となります。
 厚生労働省は、モデル年金額を198万円(国民年金78.6万円+厚生年金119.9万円)としていますが、他に預貯金がなければ、モデルとしている200万円の年金収入のある高齢者も、一定額以上の預貯金がなければ、ユニット型特養ホームには入れないのです。

特養ホームと年金



 高齢者の生活は年金だけでは難しく、ある程度預貯金が必要になるというのは事実です。
 また、特養ホームは老人福祉施設であるが、要介護状態になってから何度も転居することは高齢者の生活の安定上好ましくないため、一時的利用ではなく、居住性を高めなければならないということはわかります。
 しかし、特養ホームは、その役割以前に、要介護高齢者の最後の砦、最低限の生活を営むためのセーフティネットとして整備されてきたものです。その役割のために、莫大な社会保障費が投入されているのです。福祉や初等教育というのは、憲法に関わる国の義務であり、お金がない人は福祉施設に入れないというのは、貧乏人は公立小学校に行けない・・というのと同じです。
 厚労省は、ユニット型個室しか認めていないために、平成24年度では特養ホームの個室率は2/3を超えています。しかし、テレビに出演されていた特養ホームの施設長の話を聞くと、個室への申し込みが2割、入所費用が安い共用部屋への申し込みが8割だと言います。
 そのため、特養ホームは足りない、52万人待ちだ・・・という一方で、ユニット型個室特養ホームに入れるだけのお金を持っている人は申し込みから数ヶ月で入所できます。しかし、年金や預貯金の少ない人、財政的に支援する家族のいない8割の人は、1/3の特養ホームに殺到し、2年待ち3年待ちはザラ・・という状況になっているのです。
 お金があれば、介護虐待などの福祉的課題は発生しないというわけではありませんが、金銭的な困窮と、福祉課題の発生は、当然リンクします。更に、自宅で生活できない、特養ホームにも入れない低所得の要介護高齢者は、必要の介護サービスや医療行為を押し付け、その報酬を搾取し、人権を無視したようなケアが行われている無届施設や一部の劣悪なサ高住に流れていくため、ここでも莫大な金額の社会保障費が無駄に使われています。すべて、特養ホームというセーフティネットが崩壊しているからです。

 このような状況を厚労省はどのように把握、判断しているのでしょうか。
 このようなニュースがでると『特養ホームが足りない』『待機者は40万人、50万人だ・・』と、厚労省はじめ、一部の厚労族や大衆迎合主義の国会議員、利権目的の地方議員が騒ぎ出すでしょう。
 しかし、その実態は、老人福祉の向上とは正反対の、老後の生活資金に不安のない300万円400万円の年金をもらえる公務員や数千万円の預貯金がある人だけが優先的に入所できる、「高齢者住宅ではないが高齢者の住まいの役割的なもの」です。これからも老人福祉の名のもとに国民をだまし、莫大な費用を使って作りつづけるつもりなのでしょうか。
 更に問題は複雑化し、拡大してしていきます。
 今後、財政悪化の深刻度は、急速に増していきますから、介護保険料や健康保険料の負担は増えていくでしょうし、現在の一割負担は、二割負担三割負担となります。一方の低所得者対策には限界がありますから、全体として負担額は増えていきます。そうすると、一部の旧来の複数人部屋の特養ホームへの待機者が激増する一方で、莫大な費用を作って作られたユニット型特養ホームは空所のところがでてくるでしょう。一部では、もうすでにその状況に入っています。
 財政、人材ともに、絶対的に不足していることは明らかなのですから、その中で、最大限、公平で効率的な制度が構築できるように、智慧をしぼらなければなりません。「高齢者住宅ではないが高齢者の住まい」といった誰が聞いても首をかしげるようなごまかしはやめて、高齢者・要介護高齢者の住まいの確保は高齢者住宅施策で推進し、優良な高齢者住宅には家賃補助などの低所得者対策を行うこと。それと同時に、これまでの特養ホームもその役割を福祉施策などの緊急対応に限定し、かつ現在のユニット型特養ホームは、絶対的に不足しているショートステイなどに開放するなど、政策を抜本的に見直さなければなりません。

 「52万人の待機者がいる」「特養ホームが足りない」「特に東京などの都心部で不足している」というのであれば、特養ホームへの申込者が殺到している一方で、東京都の足立区では新しく開設されたユニット型特養ホームには待機者がなく、定員が埋まらないという現状について、厚労省は説明すべてきではないでしょうか。



category: 特養ホームをつくってはいけない理由

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